・こうして大森さんがキャンペーンに回られている時、他のメンバーはどうしているんですか?
「みんな同じくキャンペーンで全国を回っていますよ。明後日だと僕は大阪ですが、同時多発的に新潟や金沢にも、そして都内のショップも回っていますね。キャンペーンはみんなで!」
・必ず聞かれると思うんですけど2作目にして早くもバンド名をタイトルにしたアルバムを出されました。これまでの例で行くと、これぞ僕たちの音楽だ!と自信を持って出す4作目あたりでバンド名を冠にすることが多いと思っていたので、正直ちょっと驚きました。
「前作のアルバムで、メンバーそれぞれの音楽観や音楽的バックグラウンドをつづれたと思うんですけど、今すごく良いサイクルで活動が出来ていたし、『これから』のことを歌いたいなって思ったんです。それって初めての事なんですよね。これからの希望に満ちたアルバムにしたいなと思ったので、曲を書く前から、曲が出揃う前から、今回はMrs. GREEN APPLEというタイトルにしたいです、ってメンバーやディレクターに話しました。言い方は変ですけど、前作で過去にピリオドを打てたので、気持ち的には今回がメジャーでのファーストアルバムって感じがしています」
・この時期に発売という事は制作は昨年の夏には始まっていますよね?
「5月から始まっていますね」
・という事は、フェスがあったりツアーがあったりした中で作っていったと。ライブの成功が制作の後押しをしてくれた感じですか?
「間違いないですね。僕らはデビューまでが早かったので、爆速で行ってるような感じがあって、僕ら自身がそのスピードに追いつかなきゃと思っていたところがあったんですけど、3月から4月にかけてのTWELVE TOURがメンバーみんな楽しかったし、あぁしなきゃいけない、こうあるべきだ、みたいな固定概念から抜け出せた気がして。やっぱりデビューが早かったとか、若さがコンプレックスでもあったので、つまり同級生が集まって仲良しから始まったバンドではないので、バンドってイイね、とか、ライブって楽しいね、ってことに改めて気付いたというか。それが今回の制作に反映されていると思いますね」
・でも、確かに成長して行くスピードは速いし、その分受け止めなきゃならないものも大きくなっていくだろうし、その分自分のキャパシティも大きくなっていかなきゃならないだろうし、プレッシャーもあるだろうし、これを背負える20歳ってどーよ、って。
「ははははは(笑)。でもそれを望んできたバンドですから。自分たちの好きなものを作っていたら評価してもらえたというよりも、評価してもらえるものを作ってきたというバンドですから」
・これって文字にすると、けっこう誤解を受けやすいかも、、、。
「確かに、確かに。でもMCでも言っちゃってますから。プレッシャーって、環境に対するプレッシャーというより、自分に対するプレッシャーはありますけどね」
・インプットとアウトプットってあるけど、こうして濃厚なアルバムを作りライブのキャパも拡大し、聴いてくれる人の数も増え、アウトプットはすごく大きくなっているけれど、その分インプットも必要じゃないですか、自分の為には。そこはどうしているんだろう?
「深い話だなぁ(笑)。でも、今のこういう状況は考えていました。ぶっちゃけいうと中学時代からイメージはしていました。こうであるべきだと思って活動しているので、だから今アタフタしていたりは絶対に無いですね」
・曲の作り方って?ギターで作る人?ピアノですか?
「僕はDTMでアレンジまでを一気に作っちゃいますね。フルに全部一気に出来ちゃう場合もあれば、ワンフレーズ、ワンコーラス作って自分の中でちょっとお腹いっぱいになっちゃって置いておいたものってたくさんストックがあって、それを聴き直して、フルまで作り直そうとした曲もありますね」
・曲順には悩んだんじゃないですか?今は1,2,3曲目にメインとなる曲を持ってくる事が多いですよね、CDショップの試聴機対策としても。でも、別に持ち上げる訳ではないけれど、例えばM-5の『soFt-dRink』、M-6の『鯨の唄』、M-7の『うブ』を頭に持ってきても全然成立すると思うんです。
「ああ、それはそうかもしれませんね。曲順は確かに他の人に相談もしましたけど、頭に美味しいメインを持って来るという発想はなくて、曲のスピード感とか曲の世界観だったりとか、曲の緩急、それを考えた順番ですね。今回これ以外の曲は作ってもいないし録音もしてないんですよ。この13曲でひとつのアルバムにしたいと思って作りましたから。全部リード曲でも良いと思えるようにしているから、そこは明確だったんですよ」
・へえ〜。ますますすごいなぁ。M-11の『FACTORY』って曲は、バンドの始まりのミニアルバム『Introduction』という、ライブ会場限定に収録をされていた曲で、1曲目に演奏していた曲だそうですが、その曲をリ・アレンジして入れた事でこのアルバムに、バンドの活動に【物語】が生まれたと感じるんですよね。
「うんうん、そうですね」
・バンドにとって大事なのって【ストーリー】だよね?
「間違いないですね」
・だからこの曲を今入れる事はとても大事で、実に戦略的だよね(笑)。
「戦略的!ははははは(笑)。でもファーストにも『Introduction』の曲をリ・アレンジして入れてますし、僕らの基盤となっているのがその『Introduction』というアルバムなんですよね。純粋にその当時の曲が愛おしいんですよね。『FACTORY』は16歳の時に書いた曲なんですけど、今でもスーッと入ってくる曲なんですよね。昔の曲って感じがしないというか」
・でもリ・アレンジが出来る曲ってことはイイ曲だってことなんだと思うな。土台がしっかりしてるからリ・アレンジが出来るんだもん。だって『若気の至り』でこんな曲を書いちゃいました〜、ってことではないってことだもんね。
「いろんな時期に書いた曲がこのアルバムの中に同居していて、それが違和感なく聴けることが不思議でもあり、嬉しくもあり、ですね。若気の至りで曲を閉じたくないなってことは当時から思ってたんで、今音源化できることは嬉しい事ですね」
・良い曲が出来たな〜、って思うからフルにまで作業を続ける訳でしょうけど、大森さんの中で【良い曲】っていう定義は何?
「・・・自分が好きかどうか、かなぁ。聴いていて気持ちイイかどうか、かなぁ。演りたいことってたくさんあるんです。こういう音楽が作りたい、って理屈では分かっているんですけど、その理屈だけでは音楽って面白いものにはならなくて、フッと出たフレーズが自分の気持ちいいもの、歌メロとかもそうなんですけど、気持ちいいポイントを持っているものでしか曲は作らないようにしているので。僕は歌詞も同時進行でいっぺんに作っていくので、家で打ち込みでオケをRec.していくんですね、ドラムやベースや全てを自分で作っていく時に鼻歌でメロディも作っているんですよ、『ふふふ〜ん』みたいな感じで。そして自分の歌入れする時、これも家で録っているんですけど、その時にはほとんどの部分の歌詞も出来上がっていますね。僕らプリプロをしないバンドなんですよ(注:プリプロとは、正式なレコーディングに入る前の曲を完成させて行く簡易的なレコーディングの事)。僕の作ったデモがその代わりになっているので、後はぶっつけ本番のレコーディングになるんです。僕のデモは、ファイル上のことですけど、楽器パートのミックスもマスタリングもやっちゃうんで」
・へえ〜!(ただただ驚き)
「ただ、僕は楽譜は書かないんで、『こんなの出来たよ〜』ってメンバーに渡したらメンバーはまず耳コピするんです。でもそこにそれぞれの手クセがあったり自分の解釈があって、スタジオで皆で合わせた時に、僕がDTMで作った感じとは違っても、そこは案をもらったり皆で話し合って意見の擦り合わせをします。デモが基盤になっているのは確かですけど、そこはバンドですから」
・そうですよね、自分では思ってもみなかった方向になったとしても、大森さんが『これもアリだな』と納得したら、曲が良い方向に行くのなら、それは良いことだもんね。
「Mrs. GREEN APPLEとしてやっているんでね。ソロでもないしワンマンバンドでもなくMrs. GREEN APPLEですから。ソロになるなんて簡単なことだと思うんですよ(笑)。でも戦隊モノに例えるなら、僕は赤レンジャーだけど、それぞれが○色レンジャーになってね、ってそれは結成の時に話し合いましたね」
・へえ〜。大森さんはほんとプロデューサーだねぇ。同時進行的に歌詞を書くと言っていたけど、言葉に力があるし、存在感があるし、となれば言葉を支えるポテンシャルを持ったサウンドがないと成り立たないですよね。
「うんうんうん、まさにそうですね。そう言ってもらえると嬉しいです」
・別に褒めるために来てるんじゃないんだ。だってMrs. GREEN APPLEがもうペニーレーンでライブやるわけないんだからさ、今営業に来てるわけじゃないからね(笑)。
「ははははは、いやいやまたお世話になりたいですよ(笑)」
・音が【丁寧】だと思うんですよ。丁寧なんだけど勢いを殺してないし、テンポの遅い曲でもちゃんと熱を持っているな、と思います。
「へぇ、それは嬉しいです。すごく嬉しい評価です。それはとっても大事にしているところなんです。これまではせーの!で一気に録っていたんですけど、このアルバムはそれぞれ録っているんです。せーの!で録ると勢いも出るし熱量も込められるんですけど、それぞれパートごとに録ると勢いが削がれるのは嫌で、それは皆にも注意しようね、って話しましたね。僕らが若くしてデビューして作品をリリースするってことは、後ろめたいわけじゃなくて嬉しい事だけど、若いからだよね、って言われる事は嫌なので、それぞれの足下を固めていく作業とか軸をブレさせない作業は今でも話し合いしますね。メンバーは、僕の書いた曲を、4人だけで読み合わせをしているんですよ。【この歌詞に対して自分はこう思う】っていう読み合わせを4人でしているらしいんですよ。理解しないと曲は弾けないと思っているらしくて。だから持ってこられたモノにただ単に乗っかることはしたくないらしいし、僕もそれじゃあ意味がないとも思っているし、丁寧に、かつすごくアグレッシブに、曲にアルバムにみんなが向き合っていますよね」
・自分たちは進化しているときっと自信を持って言えるんだと思うけれど、変わってはいけないものというのもきっとあるでしょ?
「変わってはいけないもの・・・さっきのメンバーだけのミーティングというのもそうなんですけど、人間としての成長というか、とても人間味、あるいはメンバー間の人間関係にすごく時間をかけているバンドなので、そこが疎かになっちゃダメだという気がしますね。人があってのバンドだと思うし。僕自身の音楽的なところでいうと、僕は満足しちゃうと曲が書けなくなる人なので、メジャーデビューは夢でしたけど、それが決まった時には、よっしゃー!って、満足はしなかったし、更にその先のことを考えていたと思うし、僕は常に【腹ぺこ】でいたいと思う。腹ぺこだから曲を書く事が楽しい。つまり僕と音楽との関係性は変わっちゃいけないと思います」
・逆に、変わらなきゃいけないものってありますか?
「うーん・・・(熟考)。矛盾しちゃうのかなぁ。分かるんですよ、質問の意味は。僕も常に考えてることですし。さっき、メンバーと向き合っていなきゃならないと言いましたが、ただ向き合っただけで終わっちゃいけないと思っているので、なれ合いだといけないと思っているし、もっともっとクリエイティブな仲になっていかなきゃならないと思っているし、僕らはやっとこの活動を楽しんでやれる段階になれただけなので、ファンの方を本当に楽しませるエンターテイメントの部分だったりはきっとまだまだだと思うし、僕らはもっとしっかりとアイコンになれるようにしなきゃな、って思いますね」
・アイコンかぁ。そこをしっかりと意識しているって、本当に素晴らしいな!
でもそれって、時代のアイコン?世代のアイコン?
「それ、難しいですね!そりゃ時代のアイコンになれたら嬉しいけど、、、音楽を始める前からその意識は何故かあるんですよね。その気持ちの行き先が分からないから僕は音楽を始めたんだと思います」
・有名になりたいってこととアイコンになりたいってことは、次元が違うからね。でもその意識の高さを僕は絶対的に支持しますね。素晴らしいです。さて、ライブの話になりますけど、割とちゃんと反省会をしますよね?『いいライブ』だったなぁ、という気持ちになる事は多いですか?
「いや、そんなにはないかもしれません。楽しかったな〜!ってことはたくさんあるんですよ。毎回毎回完全燃焼してるし、でも、もっといけたよね、ってどっかで思っているんです。物理的にもっといけたのか、気持ち的にもっといけたのかは分かんないんですけど、やっぱりもっと先を見据えているので、満足というか、フルな気持ちになったことはあんまりないかもしれないですね」
・次のツアー『MGA MEET YOU TOUR』は、ライブハウスシリーズが12ヶ所13本、ホールシリーズが札幌も含め7本と、これまでで最大規模です。ステージに立つ人間としては、ライブハウスとホール、違いはどうですか?
「ホールはほとんど演ったことがないんですよ。だから、分かんないっちゃ分かんないんですけど、ライブハウスって【熱量が行き交う場所】だと思うので、その熱量はホールでも同じであるべきだと思うんですけど、でもそこはこれから考えなきゃならないと思っていますね。ライブハウスシリーズとホールシリーズの間が3週間空いているので、その間何をするかは決まってないですけど、意識をチェンジできる期間だと思うので、そこで気持ちを切り替えたいです。前回のツアーで、ライブが楽しいってことをホント実感できるようになれたので、そこをもっともっと爆発できるようにしたいですね。まだ何をどのように演ろうかという内容のミーティングはしてないんですけど、僕の頭の中ではビジョンが見えているので、それを信じて。友達と、友達のところに遊びにくるような感覚で来て欲しいですね」
・札幌はホールシリーズの2本目だから、1本目を終えて修正もできるし、少し馴染んでもきて、でもまだホールへの新鮮さもあるでしょうし、ちょうどいい日程かもしれないです。お客さんはゴールデンウイーク前のウキウキ感に気分も高揚しているだろうしね。今日は長い時間ありがとうございました。
「地方キャンペーンの1発目なのに、とっても濃厚なインタビューでした(笑)」
インタビュー・文 大槻正志(ペニーレーン24)