WESSRUN! RUN! RUN! スペシャルインタビュー佐野元春

RUN! RUN! RUN! スペシャルインタビュー

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佐野元春

ライブレポート 11月25日 ZEPP SAPPORO

 

冬の清冽な空気が張り詰め始めた札幌の街の夕景に、大きな期待感を抱いてZEPP SAPPOROに人が続々と集まってくる。50代とおぼしき『昔の仲間たち』の再会もそこかしこで見られるが、親子連れが多いように感じた。それも父と息子さん。母と息子さん。同じ音楽を愛し共有し語り合えるというのはなんと幸せで豊かなことなんだろう。 今回のライブレポートを書くにあたって、僕は10代と20代の二人の若者を呼んだ。佐野元春は以前から信念として「曲を書くとき、僕はいつだって10代や20代の若者たちを意識しています」と語っていたからだ。二人とも佐野の曲を何曲かは知っていても決して熱心なファンというわけではない。もちろんこの日が初めて生身の佐野元春を体験する日だ。 一人は4人組バンド『Selfarm』のボーカル&ギター、モッサン(29歳)。彼らの曲「Be Free」はこの夏ノースサファリサッポロのTVCMに起用されていたので聴いたことがある人もいるだろう。 もう一人は現役高校生のスリーピースバンド、『–KARMA-』のボーカル&ギター、畑山悠月(18歳)。11月には1st mini album「イノセント・デイズ」でEggsレーベルから全国リリースを果たしている期待の星だ。 二人ともバンドのフロントマンとして作詞・作曲をこなす。その意味では佐野元春と同じポジションだ。そんな彼らの目を通した感想も交えながら書き進めたいと思う。

佐野元春

佐野元春 & THE COYOTE BAND「禅BEAT 2018」

11.25(土) Zepp Sapporo

 

INTERVIEW

熱心な音楽ファンであろうとなかろうと、この約40年、佐野元春の音楽に全く接触してこなかったという人を探すのは難しいだろう。場内をビッシリ埋めつくした観客の中には、往年の筋金入りのファンばかりでなく、いかにも「バンドを組んでいます」的な若いグループの姿もあった。40周年を迎えようとしてもなお人々に影響を与えパワーアップしている佐野元春の底力は計り知れない。

 

「今日は楽しんでいこう!」と、1曲目に歌われたのは『境界線』だった。このテンポの曲からライヴをスタートさせるのは、実はとても難しい。オープニングが成功すれば、ライヴはもう半分成功したも同然と思うが、多くのアーティストは派手なテンポの曲を1曲目にもってくる。しかし佐野元春はその方法を選ばなかった。よほど今の自分とTHE COYOTE BANDに自信があるのだろう。じっくり歌って、ぐいぐいとオーディエンスの気持ちを押し上げていく。 派手さで驚かすのではなく、オーディエンスの耳がフレッシュなうちにベストなサウンドを味わってもらう。アーティストなら誰もが憧れるオープニングではあるが、もちろん誰でも出来るわけではない。自分たちの表現する音楽が、求める人の場所に求める音で届くことがベストだが、それを1曲目から易々と繰り広げたことに、結成から13年を経たTHE COYOTE BANDと佐野元春との充実が感じられた。

 

「北海道での震災の復旧に向けて頑張っている人たちに向けて捧げたい」というMCの後に歌われた『La Vita é Bella』は圧巻だった。

畑山「佐野さんの曲って、歌詞と歌詞の間に隙間があるというのか、その分だけ歌詞がすごく聞き取りやすくて、だから余計に楽しめたし勉強にもなりましたね」

モッサン「僕が思ったのは、Aメロの歌詞って語り口調なのが多いような気がして、その語り口調をメロディに乗せるとすごく説得力が増すなぁと思いました。意味がしっかり伝わってくる。リリックを大事にしているからの手法なのかな?って思いました。そうすると韻を踏めるしビートにも乗りやすいのかなぁ?って」

畑山「言葉にリズムが出るというか。すごく自由に聴こえるんです。歌いたいことを歌っているんだ、とか、リズムと歌詞の関係が自由だな、と思うんです。それは今まであまり聴いたことのない自由さでした」

モッサン「ビートロックって4つ打ちが多いんですか?だからか、聴いているだけでどんどん持ち上がっていく感が、持ち上げられていく感がすごくありました

畑山「イントロがどの曲も強くないですか?AメロBメロの転換がすごく独特で上手いし」

モッサン「そうだな、サビも大事だけどイントロも大事だなぁと再認識しました」

「ある人のインタビューで、CDショップ行って試聴機で曲を聴いたら、最初の30秒が大事と言ってたんですけど、それを今日も感じたし、僕もそれをもっと意識して曲を作りたいです。佐野さんのイントロがあれば最後まで聴いちゃう」

モッサン「聴いちゃうね、絶対に」

畑山「イントロの壮大さにやられました」

 

「新しい世代の人が来てくれているようです、10代の人はいる?そこ、なんだか怪しいなぁ(笑)。僕の世代に、みんなの世代に、この曲を」と歌われたのは『新しい雨』で、続くM-11の『純恋』の前には「曲を書くときにいつも思う。10代や20代の人の心に届けばいいなぁ、と」と優しい視線で語った。 

畑山「あのMCはバッチリでしたね。それと曲をしっかりと終わらせるじゃないですか、繋げずに。その度に“ありがとう”と言って。お客さんはその度に気持ちが切り替えられるし、そういう【間の取り方】は自分でも試してみたい。どの曲もドラムのカウントから入って完結して、一曲一曲を主人公にするというのはステキでした。今帰ってから曲を作ったら、きっとすごく影響受けちゃうなぁ(笑)」

 

M-12の『ライナス&ルーシー』はインストで、佐野元春&THE COYOTE BANDの魅力と底力を充分に堪能できたチューンだった。このところほぼ毎日同期モノを多用する若手のバンドの音を聴いている僕の耳には、同期モノじゃない生音のライブならではの、サウンドのクリアさ、シャープさ、キラキラとした音の粒、その濁りのなさ、その全てが新鮮で心が跳ねたのだった。

畑山「音が輝いていた。バンドの人は絶対楽しいだろうな」

モッサン「音のダイナミクスがすごく上手かったですね。引くところは引いて、ガツンと出るところは出るというか。特にM-12のインストロメンタルのところ、キメがすごくカッコよかった」

畑山「うんうん、あそこすごく鳥肌がたった!一つ一つの楽器が、これ以上上げないでほしいし、これ以上下げないでほしいし」

モッサン「よく音の引き算って言うけど、あぁこれがそうなんだなって今日思いました。音と音の間にちゃんと隙間があるから、そこに聴く僕たちの感情が入り込む、というか」

畑山「それかっこいいな。歌詞と歌詞の間にお客さんの気持ちを入れる、みたいなことができたら最高っすね。佐野さん、ずるいっすね(笑)」

モッサン「一番印象に残ったのは13曲めの『禅ビート』でした」

畑山「僕は11曲めの『純恋』ですね。その前のMCからぐっときていたんでこの曲がまっすぐ入ってきました」

モッサン「その曲は照明もすごく良かったね。迷った時に聴くべき曲だなぁ、と思った、僕は」

畑山「照明だと、ひとつびっくりしたのがあって、ギタリスト二人がそれぞれ弾いている時に二人を追っている照明があったんですよね。ピンではなくて上から当たっている照明だったと思うんですけど、多分打ち込んでいるものではなくて手作業でスイッチングして追っていたと思うんですけど、それがとても人間的な感じがしてイイなぁと思いました」

 

M-17は、このバンドだからできるアレンジではないのか?あのスカのリズムが出てきてやっと『インディビジュアリスト』だと気付く。実にフレッシュだ。新しい上書きだ。ずっと以前僕はインタビュー時に佐野に「このインディビジュアリストはガラスのジェネレーションの中の“つまらない大人にはなりたくない”へのアンサーではないかと思います」と言った。佐野は「そうであるかもしれない」と答えた。しかし今回『インディビジュアリスト』を改めて聴いて思うのは、この18年間、誰もが、どんなアーティストたちもが、背負わざるを得なかった命題「明るいバラ色だと夢見ていたはずの21世紀は、実はより大きな困難を抱えてしまっている」現実への、明確な答えはないこのテーマへの、やはり一つの回答なのでなないのか?ということだったのだ。ベテランのライブらしい安定感があるのはもちろんだが、その中に新しい音楽的な刺激を求めることを怠らないのが、佐野元春の素晴らしさだ。この夜も、観客を沸き立たせさせながら、ミュージシャン同士が交わす火花がスリルを生んでいたのがさすがだった。取材のために客観的に観に来ているはずが、ライブの渦の中にまんまと引き込まれている感覚になってしまっていたことを告白したい。

 

アンコールに入る。

モッサンと畑山が二人で言葉を交わしている。きっとバンドマンでありフロントマンだけに通じる共通言語があるのだと思う。

ふと気付いたことがあった。佐野元春とこのバンドがライブでかき鳴らしているのは音だけじゃない。“明日を生き抜くために『今』を生きるエネルギーの交歓をすること”なのではないか?と。佐野のMCに媚は一つもない。でも今を共有し、楽しみ、お互いのエネルギーを信じて交歓することを、自らの音で表しているのではないか。このメンバーの奏でる音の全てが『楽しい!』と言っているのだ。僕にはそう聴こえた。ロックンロールは連帯の音楽だ。何度でも立ち上がる力だ。

 

『ヤァ!ソウルボーイ』に続いて歌われたのはM-20『水上バスに乗って』だ。

モッサン「ああやって、情景が見える歌詞っていいですね。心情だけじゃなく映像があるというのが。僕も地下鉄に乗って、って歌を書いてみようかな(笑)」

畑山「僕ならバスだな。石狩なんで地下鉄走ってないんですよ。バスの中で見かけるあの娘に恋をした、とかバス停とかのシチュエーションで。そんな曲を歌っていたら“佐野元春さんの影響だな”って思ってください(笑)」

モッサン「思ったんですけど、ボーカルって指揮者ですよね。ボーカルが指揮をとってやっていないとバンドはダメなのかなぁ、と。どっしりと芯が通って指揮をしていたな。でも動きは軽快でしたね。60歳超えているんですよね?軽快にステップ踏んで踊ってましたもんね〜!すごいや。自分に自信がないとああは歌えないし振る舞えないですよね。自信が漲っていたなぁ。でも、きっと、音楽の場でなくても、私生活でも自分を奮い立たせているのかもしれないですよね。そこからきていると思う」

 

そして「ロックンロールは若い世代と僕らの世代を繋げる虹だ。自由で明るい未来に向かっていきたいと願う気持ちは一緒だ」と言って歌われたのは『約束の橋』だった。あのイントロで、これまで僕は何度心を奮い立たせてこられただろう。

モッサン「僕のように20代の者が聴いても新しいし、ロックンロールは

古くから聴いている人と若い人を繋げる虹だって言っていましたよね。すごいピースフルな言葉でぐさっときました。MCの言葉や表現も今まで見たライブとは全然違って、ホント刺さりました」

 

最後になるMCで佐野はこう語った。「もう少しでデビューして40年です。信じられないよ(笑)。ある人は言う「古い曲をやればいいんだよ。盛り上がるよ」と。そうかもね。わかってる。でも前進している姿をちゃんと皆さんに見てもらいたいんです。そう思った」

歌われたのは『アンジェリーナ』だ。【今夜も愛を探して】。このテーマは不変だ。あの頃の曲も、THE COYOTE BANDと作り上げた4枚のアルバムの今の曲も、地平で繋がり何も変わっていない、と気付かせてくれた。だから僕たちは佐野元春の『次』を待っていられる、そう思った夜だった。

この日で終えたこのツアーのタイトルは『禅BEAT』である。しかしもしもサブタイトルを付けさせてもらえるとしたら、それは“未完”ではないのか。“未完”とは未完成のまま終わることのではなく、自分が望めば、どこまでも無限の可能性を広げられ、想像という翼を広げることはその続きを描けるということなのだと、佐野元春は今回のツアーで証明してくれたのではないか。

畑山「知らない曲もあったけど楽しめました」

モッサン「そうだね、同じくです。みるみる巻き込まれていく、というか」

畑山「正直、最初の方は“かっこいい!僕もこういう曲を作りたい”って気持ちで聴いていたんですけど、途中からは“佐野さんは、このキャリアでこんなにかっこいいことを言ってるのに、俺は何をしてんだろう?”みたいに思っちゃって、少し自信を失くしたなぁ(笑)。でもそれは悪いことじゃないと思うんです。笑っちゃう落ち込み(笑)?とにかく存在がすごかったです。あんなライブしたらみんなホレますよね、お客さん。お客さんのノリかたがすごかった。当然皆さん年上の方ばかりだけど、ノリかたが自由だし、めっちゃいいライブの空間になっていた。これが佐野さんの『今』をさらけ出しているライブなら、それこそ『名曲』と呼ばれている曲ばっかりのライブだったらどんなことになるのか!?って感じですよね」

モッサン「ライブ前の自分とライブ後の自分が違う。全然違う(笑)。気持ちが切り替えられたしパーっと明るくなれた感じがします。全てを通して“希望をもらえたライブ”でした。しっかり持って行かれた」

畑山「全編を通して長い映画を見ていたようでした。曲のたびに第1章第2章というように進んでいって、佐野さんの列車に乗っているようでした。ちゃんと各駅停車で、駅に着くたびに一つの物語が終わる、そんなことを今感じます」

 

一流の表現者の実力と包容力をまざまざと見せつけられた一日だった。

佐野元春のライヴはいつもスリリングで期待を上回る感動を与えてくれるが、この日もまた一段と特別な思い出となるものだった。こうした夜を経て佐野元春とTHE COYOTE BANDは前に進んでいく。

会場の外は冷え込んでいる。しかし体の中ではとても強く何かが光と熱を発し始めていたのだった。

このツアーを終えたあとの佐野元春が何をするのか想像してみる。けれど、きっと佐野元春は僕の想像を鮮やかに覆してくれるだろう。彼が今いるのはそんな【希望の音がする】バンドだ。

 

(文責: ライブハウス「PENNYLANE 24」シニアマネージャー 大槻正志)

 

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