WESSRUN! RUN! RUN! スペシャルインタビューTHA BLUE HERB

RUN! RUN! RUN! スペシャルインタビュー

PICKUP ARTIST

THA BLUE HERB

8月17日土曜日深夜23時。

RISING SUN ROCK FESTIVAL2019のRAINBOW SHANGRI-LAのテント内からはTHA BLUE HERBの登場を待ちわびる興奮に満ちた歓声が鳴り止まないでいる。会場外にも響いている。狂乱と興奮は紙一重で、音楽フェスの大事なスパイスだ。

後にILL-BOSSTINOはオフィシャルHPのMONTHLY REPORTの中にこう記している。

『RISING SUN ROCK FESTIVAL。3年ぶり8回目。地元札幌の路上から堂々乗り込んだ。俺等的には実に1年半以上ぶりの戦線復帰。楽屋エリアには強者どもが大勢いる。馴染みの顔もあちこちに。帰ってきたって感じがしたよ。不思議と緊張してなくてね。いつするのかなって思ってた。本番間近になったら、まあいつもの感じで緊張するのかなって。でもしなかった。最初の地下鉄のSEでのあの怒号を聞いたら緊張超えて、めちゃワクワクしたよ。沢山凄い音楽家がいる中で俺等を選んでくれて、ああやって迎えてくれて、とても嬉しかった。ありがとうございました。貴重な事はこの上ないけど、何せ50分。一瞬だ。俺等とはってとこで別れの時間が来た。でも初戦があの場で本当に良かった。弾みがついた。WESSの皆さん、台風とか色々大変でしたがお疲れ様でした!』

 

弾みをつけ、そして彼らはまた旅に出た。

旅するラッパー、いや、旅するラッパー・ソング・ライターだ。

リアルな旅、心の中の旅、届けるための旅へ。言葉と音楽を紡いでいくためのアノ旅へと。

THA BLUE HERB

THA BLUE HERB 5thALBUM「THA BLUE HERB」 RELEASE TOUR(北海道分)

10月2日(水) 札幌 KRAPS HALL

10月4日(金) 北見 UNDERSTAND 〜ツアーファイナル

INTERVIEW

 

プロモーションのためにフライヤーやポスターを自ら配りに行くのだと聞きました。

「そうですね、いつも通りやっていますよ。今(注:インタビュー時です)だってDJ DYEが全国を回っていますし、僕も大阪や名古屋・京都を回りました。CDショップだけでなく服屋さんやクラブや飲み屋さんなど、毎回行っているお馴染みのところもあれば初めて訪れる場所まで回ります」

 

自分で回らなきゃ気がすまないんですか?

「そうですね、まぁ、全部に配送しても自分で行っても手間とか経費とかはたいして変わんないんですよ。だったら自分の足を使って直接出向いた方が信用されるし、まず人と繋がれる、繋がってた皆とも会える、そして、今後その街でライブを演るのにも繋がるし、説得力って意味でもその方がいいんです。旅自体も好きなので全く苦じゃないし」

 

今回のアルバムは“きちんと伝わらなきゃならない”という使命感はないですか?

「まぁ、作業上の苦しみは2倍でしたしね、でも日比谷野音で、20年分の感謝も伝え終わったと思っているし、一区切りはついているんですけど、今は“キャリア中盤の第一歩のところにいるな”って気はしています。

HIP HOPって最近は流行っていて、MCバトルも盛んになっていて、それが前回のアルバムから今回までに大きく変わったと思う。だからTHA BLUE HERBに影響を受けたって言ってくれてるラッパーもいたりして、THA BLUE HERBってなんだ?と改めて興味を示してYouTubeなんかを見ているコたちもいる。でもそれは全て過去のTHA BLUE HERBなわけですよね。だからここいらで一発、俺らがどういうヤツらかを全方向的に示せるアルバムを作りたかったんですね」

 

4月1日にこれまでの150曲を配信し始めました。その意図は?

「やっぱり今も言ったような若い人たちの存在ですね。CDは買わないでそういう方法で聴くという人たちへ向けてですよね。ラッパーなんで、若いラッパーたちとも勝負したいんで、向こうの土俵にも自分たちから行かないと始まらないんで。とは言っても、僕らは今年で22年音楽をやってますけど、配信ってここ何年かのトレンドなんでね、携帯で音楽を聴くってこともね。でも、僕は音楽好きとしてここまでやって来ているんで、ビートルズとかからずっと続く長い音楽の歴史の枝葉にいると思ってるんで、その時間の長さからすればまだ短い時間のトレンドでしかない。

それよりは、ビートルズの『WHITE ALBUM』もそうですけど、2枚組のアルバムを作ったアーティスト達の末席に名を連ねるという憧れを実現したかったし、そういう方々とも勝負したいし、そういう【今】が大切ですね」

 

ちょっと配信の方に話を戻しますけど、配信をすればどの曲が何回ダウンロードされたというのが分かるわけで。

「確かに、CD単位ではなく、曲単位で、どの曲がどんな人に聴かれたのかとか分かるのかもしれないですけど、視聴できる秒数を意識して曲を作る気もないですし作ったこともないですし。これまでの20年分のアーカイブは配信しましたけど、今回のアルバムを配信するかどうかはまだ決めていないんです。それよりはアルバムの15曲を、今回は2枚で30曲を、別にシングル集を作ったわけじゃないんで、その30曲全部で一つのストーリーに感じられるものを作っているんで、1曲1曲の配信とは向かうベクトルが違いますよね。だからもし配信するなら、M-1からM-15までをまとめて1曲として配信してやるか、とか考えているんですよね(笑)。70何分かで1曲、みたいな(笑)。それくらいしか考えていないですね」

 

奇抜で面白いアイデアですね(笑)。ちょっとアイロニーも入っていそうだし。ところで今回は“限定版”にはリリックのない30曲のバックトラックが付くんでしょ?トラックだけをBGMのようにして聴きたいって層がいるのかなぁ。

「そうですよ、ヒップホップの文化としてメインとインストが対になってます。インストはインストで楽しめます、僕もそうです」

 

あるいはそのトラックに自分なりのリリックを乗せてもいいし?

「楽しみ方は人それぞれなので好きなように楽しんでほしいですね」

 

これはブームなのか、最近はラッパーになるための学校もあるらしいし、クラブから飛び出して街角の公園とかでフリースタイルなラップバトルを楽しんでいる人たちもいるらしいですね。

「間違いなくブームでしょうね。アメリカのTOP40がほとんどHIP HOPの曲になってるようですし。以前は、音楽を演る=バンドを組む、だったんでしょうけど、ラップの方が入りやすいんでしょうね。楽器を持ってなくても出来る、一人でも思い立ったら出来る、入り口としては元々簡単なものだったんでね。だから若いコたちにとっつき易くなっているというのは理解できます。気持ちはWELCOMEです。でも僕は今47なわけで、そういう若いコに対して歌っているかというと、そうでもあり、そうでもない、というのも正直なところですね。

ただ、学校作ったり、賞金ちらつかせて大会を開いたり、審査員やったりとか、勝手にベテラン気取りしている人たちや日本のHIP HOPのシステムみたいなものにはNOと言いたいですけどね。だから2枚組を作ったてのもありますね」

 

だから2枚組、というのは?

「僕らもキャリア的にはベテランと言われる位置にはなったけど、まだまだやれるでしょ!運営側に回っている場合じゃないでしょ!?まだまだ現役でやれよ!レジェンド気取って椅子に座り込んでる場合じゃないでしょ!?って言いたかった。それを形にして見せたかった。まだまだこれからでしょ!って言いたかった」

 

さて、本筋の話を。2枚組を作ろうというのは2年前の日比谷野音の打ち上げの席の中で出てきた、という話ですが、さっき『WHITE ALBUM』の話が出てきたようにずっと頭にはあったのですか?

「憧れとしてずっとありました。偉大なる諸先輩たちの圧倒的な制作物というものに対する憧れですね。ただ、そもそもの始点はやってないことをやろう!というのがいつもあるんですよね、今までやったことのないアルバムを作ろう、これです。そもそも日比谷野音でやろうというのも、やってないことをやろう!の一環ですから」

 

40代半ばという年齢的にも今だな、と?

「そうです」

 

キャリアとしても申し分ないし、脂の乗っている時期でもあるし、、、

「そうです」

 

まだまだ前を向ける年齢でもあるし、体力も充分にあるし。

「そうです。今しかない。でも実は曲がCD2枚組の収録時間を超える位にできてしまってて、止めたんですよね。まだイケた。そこを知れて良かったです。『まだ歌いたいことがあるのか』とか、『モチベーシャンはあるのか』とか、『まだ燃えられるのか』とか、それを僕らが一番知りたかった」

 

THA BLUE HERB “ASTRAL WEEKS / THE BEST IS YET TO COME”【OFFICIAL MV】

 

ライムはどこで思い浮かぶことが多いのですか?

「日常の中では主にプレシャスホールでダンスしている時ですね。その時にはフロントで古いフライヤーをもらってきて、その場でメモるっていうのが一番多いですね。相変わらずそれです」

 

唐突にライムが降ってくるからいいのでしょうか?

「紙や携帯のメモ画面とにらめっこしててもいい言葉は浮かんできません。生きた言葉にはなりません。プレシャスホールは時として僕の書斎なんです」

 

どのタイミングでこの『THA BLUE HERB』というアルバム名にしようと決められたんですか?

「たぶん20曲くらいができたあたりだったと思うんですけど、さっきも言ったように、キャリア中盤の第一歩にしたかったし、俺らとはどういう音楽を演るヤツラなのか、ってところを鮮明にしたかったですから、これしかないなと思いましたね」

 

いつか2枚組を作りたいなという憧れがあったように、いつかは自分たちの名前を冠したアルバムを作りたいという憧れもまたあったのでしょ?

「ありました。そう思っていました。だから、ここしかない!というタイミングでした」

 

20年以上も前から夢見てた2枚組も出せた、グループ名をタイトルにしたアルバムを出せた、これは本当に幸せなことですよね。

「まさにそうですね。チャレンジして良かったですよ。最初の動機の段階で “アルバム1枚作ろう”ではなく、自分らができるかどうか分かんないくらいの目標を設定したからこそ良かったんでしょうね。それくらい2枚組というのは僕らにとって“遠い存在”でしたから。

 

外野的な言い方で失礼かもしれませんが、30曲作るというのはひょっとしたらそれ程難しくはないのかもしれない。でも曲が薄まってしまっては意味がない。今までのアルバムの2倍かあるいはそれ以上の濃度がなくてはならない。そのハードルはあるわけで、そこが確信に変わるというのは確かに半分以上の20曲ができたあたりのタイミング、というのはもっともですよね。

「そうですね。でも“これはイケル!”という確信がその時にあったということです」

 

ところで、例えばDISC1のM-2『EASTER』が顕著なんですけど、歌詞に入る前の部分、歌詞カードに入ってない歌い出しの部分、あれの意図するところはなんでしょう?

「それほど深い意味はないですよ。歌詞として起こすべき文字のみを起こしているだけです。耳で聴いてもらうことが全てなんで、歌詞カードはそれぞれの理解をサポートするものだと思っています。耳から得る情報を感じてもらうことが最も重要なんですよね」

 

twitterに「この街でリリックを書いた」とアーケードのある街の写真がアップされていましたが、どこ?

「あれは北見です」

 

へえ〜、前回『TOTAL』の時には北九州でしたよね?

「そうですね、前回は北九州で、他には海外に行って書くこともこれまでは多かったですけど、今回は北見という街がハマリましたね。冬はとことん寒いし夏はとことん暑いし、札幌よりも寒暖差のある街なんですよ。北見に三日間居たら不思議と5曲くらいは書けているんですよね。何度も繰り返し行きました。スモールタウンだけどビッグハートな街なんですよね。北見にいる仲間もサポートしてくれたし。あとは、旅の歌はヒマラヤの麓で書きましたね」

 

THA BLUE HERB “SMALL TOWN, BIG HEART”【OFFICIAL MV】

 

以前話を伺った時に、その街に求める条件として、あんまり大きな街じゃダメ、ネイチャー感が強すぎるのもダメ、と言っていましたよね。

「そう、それは変わってないですね。北見もちょうどそれに当てはまるんです。すごくいいCLUBもあるし。今回のリリースツアーも最後はそこでやるんです。ほとんどが北見で生まれたリリックなんで、そこで締めたいんですよね」

 

最後に、このアルバムから力を得ている全ての方へ向けて。

「やっとTHA BLUE HERBが完成したという気持ちなんで、これまでのアルバムもその時代、その時代にベストを尽くしてきたんですけど、その時々に歌ってきたトピックを今完成させたという気持ちがあって、日本のHIP HOPに対しての気持ち、普通の人たちへの表現もそうだし、旅のトピックも、札幌のトピックも北海道のトピックも、一つ一つのトピックの中で最上のものを並べたというように思っているんで、楽しんでください」

 

 

THA BLUE HERBオフィシャル ホームページ http://www.tbhr.co.jp

 

PROFILE

ラッパー:ILL-BOSSTINO、トラックメイカー:O.N.O、ライブDJ:DJ DYEの3人からなる一個小隊。1997年札幌で結成。以後も札幌を拠点に自ら運営するレーベルからリリースを重ねてきた。1998年に1st ALBUM『STILLING, STILL DREAMING』、2002年に2nd ALBUM『SELL OUR SOUL』、2007年に3rd ALBUM『LIFE STORY』、2012年に4th ALBUM『TOTAL』を発表。2004年には映画「HEAT」のサウンドトラックを手がけた他、シングル、メンバーそれぞれの客演及びソロ作品も多数。映像作品としては、地元北海道以外での最初のライブを収めた「演武」、結成以来8年間の道のりを凝縮した「THAT’S THE WAY HOPE GOES」、2008年秋に敢行されたツアーの模様を収録した「STRAIGHT DAYS」、そして活動第3期(2007年~2010年)におけるライブの最終完成形を求める日々を収めた「PHASE 3.9」、2013年に東北の宮古、大船渡、石巻でのライブツアーを追った「PRAYERS」を発表してきた。2015年にILL-BOSSTINOがtha BOSS名義でソロアルバム『IN THE NAME OF HIPHO』を、2016年には前年末の東京リキッドルームでのライブを収めた「ラッパーの一分」を発表した。
HIPHOPの精神性を堅持しながらも多種多様な音楽の要素を取り入れ、同時にあらゆるジャンルのアーティストと交流を持つ。巨大フェスから真夜中のクラブまで、47都道府県津々浦々に渡り繰り広げているライブでは、1MC1DJの極限に挑む音と言葉のぶつかり合いから発する情熱が、各地の音楽好きを解放している。
2017年、結成20周年を機にこれまでの足跡を辿った初のオフィシャルMIX CD『THA GREAT ADVENTURE』、シングル『愛別EP』を発表。10月には日比谷野外大音楽堂で20周年記念ライブを台風直撃の豪雨の中で敢行、集まった3,000人のオーディエンスと新たな伝説を刻んだ。そして、その模様をノーカットで収録した「20YEARS, PASSION & RAIN」を発表した。
2019年、5枚目のアルバム、その名も『THA BLUE HERB』を7月3日に発売した。

 

 

(文責: ライブハウス「PENNYLANE 24」シニアマネージャー 大槻正志)

 

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